もし皆さんが政府の方から「Yahoo!Japan が PayPayとの合併を無条件で許してもいいでしょうか?」、もしくは、メーカーの方から「この新しく作った製品に価格をつけたいのですが、どのような価格が良いでしょうか?」などの質問・依頼を受けたら、どのように答えるでしょうか?
若森ゼミで扱う実証産業組織論(Empirical Industrial Organization)とは、上のような問いに対して、データを用いてある一定の回答を導き出す分野です。そのように聞くと、今はやりのデータ・サイエンティストと一体何が違うのだろう?と思われるでしょうが、私は明確に違うと考えています。と言うのも、(経済学で扱う)経済のデータは、実験できないという意味で自然科学のデータとは異なりますが、決してランダムに生成されているわけではなく、(消費者や企業という)経済主体が「効用最大化」や「利潤最大化」といった最適化という意思決定を行った結果として生成されています。よって、経済のデータには癖があり、それをうまく読み解くためには、背後に存在している経済主体がどのように意思決定を行っているのか?まで深く考える必要があります。
例えば、上の例の前者の問いであれば、Yahoo!Japan が PayPayが合併する際に、「誰が」「どのような」影響を受けるかをモデルを用いて考える必要があり、さらに、その影響をどのようなデータを用いて定量化するのかを考えなければなりません。後者であれば、目的関数(利潤の最大化)は明確なものの、その製品の業界ではどのような競争が行われているのか(価格競争なのか?ライバル企業はどの程度いるのか?競合している製品は何か?新商品の投入でライバル企業は価格を変えてくるのか?)などを理論的に考察し、データを用いて定量化する必要があります。
そのようなわけで、実証産業組織論を正しく理解するためにはミクロ経済理論(特に産業組織の理論)と計量経済学の深い理解が必要不可欠です。そこで、まず3年次には、理論と実証分析の基礎の習得を行うことを目標に活動を行ってもらいます。ただ、それだけだと、筋トレだけを行い続けるのと変わりがない味気のない作業になってしまうので、まず夏合宿では経済学の一流の実証論文を読むことに挑戦してもらいます。その上で、3年次の後半には、(習得した理論と実証分析の能力を発揮できるような)三田祭論文をグループで執筆してもらい、1月頃に開催するインゼミで発表してもらいます。また、社会に出ると(もしくは研究者になると)問題意識やテーマを自分自身で設定する必要が出てきます。そこで、4年次にはそのような能力を高めるために、自分でトピックやデータを探して卒業論文を書いてもらいます。